歴々の学習院で研究する日本古代史の学者が自説を約30年ぶりに書き換えた340ページの文庫本を読んでみた.先週から通勤電車の往復等で向き合い,力作すぎて疲れたけど,読み終えてもやもやがスッキリする感覚もある.今どきは大化の改新じゃなくて乙巳の変というようだ. まずもって,真の首謀者は中大兄皇子ではなく,変の直後に即位した軽皇子=孝徳天皇だということである.軽皇子は当時の皇極女帝の実弟であり中大兄の叔父にあたる.それから,当時の大王(=天皇)がどのように選出されていたか,当時の藤原氏の位置づけ,乙巳の変の関係者の人間関係,という3つの視点から史書の記述の真偽を見極め,乙巳の変当日から孝徳天皇即位に至る流れを描きなおしている.敏達統と陽明統という2つの皇統の存在,蘇我入鹿惨殺後に蝦夷が挙兵せず自刃に至った流れ,変から律令政治確立に至る真相,壬申の乱を制した天武朝から天智朝(=中大兄統)への回帰の謎,そういった古代史の矛盾を概ね解消する歴史の流れの考察,物証主義の理科系史観ではないものの,古文書の記載を疑って検証する姿勢は歴史科学へと向かう一歩のように感じた.そして,首謀者は最大の利益を享受した軽皇子であるという結論は,現代の犯罪捜査のようでもあった.加えて,当時は唐の勢力が朝鮮半島にも及び,三韓の全ての国で乙巳の変前後に政権交代が起きていた国際情勢も認識させられた.古代史の影は,まさに現代にも伸びているように感じるのは,考えすぎだろうか?