野内良三:1944年生まれ,東京教育大学仏文科出身.静岡女子大助教授,高知大教授,関西外大教授を歴任.日本語,レトリック,日本文化などに関する著書が多い.
本書では,実用文を書く心得について解説する.目標は「達意」の文章,名文を書くことではない.文壇の戒律は,
[2]オノマトペを使うな,
[3]記号を使うな,
のようだが,気にせず使えばよい.まずは「表現の型」を覚えること,戒律はオリジナリティや個性を問題にするようになってから気にすればよい.書き言葉の日本語は「外国語」と捉え,日本語の特徴を理解せよ.
定型表現を暗記せよ:書くとは引用である.定型表現をうまくつなぎ合わせてパッチワーク的に作文すればよい.これはと思った定型表現をカードに書き留める.著者は4300枚のカードを持っている.こういう仕込みには大衆小説が一番,特に横溝正史がお勧めである.定型表現は文章を柔らかくする効用がある.但し連発すると月並みになるので,引用めかしく工夫して,さりげなく小出しに使いたい.
短文で分かりやすく:思った通りに書くと長文になる.思考の流れに節目を入れ,いったんバラして組み立てなおせ.短文の上限は,句読点込みで50字から60字.文章を書いたら音読し,読みづらくないか確認せよ.リズムも大切である.リズムを整えるために挿入する冗語も意味がある.
長い文節ほど前へ:日本語の語順に関する規則は,
[2]修飾語が被修飾語の前に置かれる,
の二つしかない.文末の述語に文節が並列につながる統語構造を持ち,どの文節が抜けても文は成立する.構造が柔らかい分,発話環境に依存して曖昧になりがちである.述語は必須だが,主語も補語のひとつでしかなく省略できる.並列な構造なので,文節の並び順は幾通りも取り得る.しかし,長い文節を述語近くに置くと障壁のようになって文の見通しが悪くなるので,長い文節から順に並べる方が読みやすい.長い修飾語はご法度.修飾語はなるべく被修飾語の近くに置く.この並び順(正順)であれば読点は不要である.逆順の場合や,ほぼ同じ長さの語群が続くときにその切れ目に読点を打つが,抵抗なく読める場合は必要無い.このほか,強調のためや読み安くするために読点を打つ場合もある.
無生物主語の構文を活用:述語中心の日本語は主観的である.日本語の基本文は,
の3つである.抽象的=観念的な内容を書くときは,無生物主語を駆使した名詞中心の構文を心がける.名詞文を動詞文に,またはその逆に,和文を和文に書き換える練習をすると表現力が高まる.
段落の構成を考える:文章は人を説得するために書くものである.説得力のある文章を書く基本は,曖昧でないこと,難解でないこと,独りよがりでないこと,の3つである.読みやすくするために,文章を段落に分けて構成する.
段落の中心思想を表す中核文は段落の先頭に置いて結論を先に示す.中核文の役割は,
[2]流れの予告,
[3]読者の関心をひく,
の3つである.一段落一論点として,それ以外は補強文とする.
補強文には,
[2]具体例を挙げる(例証),
[3]根拠を示す(理由づけ),
[4]ほかの事例と比較・対照する(類似例ないし反対例),
[5]中核文を別の側面から捉えなおす(影響・帰結・展望など),
[6]段落を締めくくる(中核文の言い直し,次段落へのつなぎ),
がある.段落を分析して適切に分割し,段落を構成する.
論を展開する:段落ができあがったら,今度は段落を組合せて文章の構成を考える.基本的には,段落の構成と同じことを繰り返せばよい.論証には演繹的論証と帰納的論証があり,前者の方が強い論証である.演繹論証は権威あるものを引用するのが典型的,高飛車に断定するのが正解である.帰納論証は適切なうまい例を挙げることになるが,数よりは質のよい例がものをいう.演繹法か帰納法に従い,あるいは両者を併用して論を展開していけばよい.起承転結の構成は実用文には不向き,天声人語を真似るな,結論は冒頭に述べよ.
[1]それは何かを詳しく説明する,
[2]それを根拠づける「法則的なもの」はあるか,
[3]それを例証する「経験的なもの」はあるか,
[4]それはどういう問題(展望・影響・結果)をもたらすものか,
[5]それを説明する理由・原因はあるか,
[6]それと似た事例(過去にあった例,身近な例)はないか,
[7]それと反対の事例はないか.
仕上げの気配り:ちょっとした気配りで文章は見違えるほど読みやすくなる.「予告する」,「箇条書きにする」,「まとめる」という構成の気配りに次の3か条を付加する.
[1]文末に気を付ける:日本語は文末が単調になりがち,単調な繰返しを避ける手だてとして,疑問形にする,否定形にする,文をいったん終えてから言い足す,倒置法を使う,体言止めにする,などがある.
[2]平仮名を多くする:なるべく平仮名を多く,「時」,「事」,「物」の意味が軽いときは平仮名にする,漢字や仮名が続くときは平仮名の分かち書きを利用,和語系の名詞・形容詞や基本的な動詞はひらがなに,副詞は平仮名書きを基本とする.
[3]文体を統一する:話し言葉と書き言葉は別,公的な文書で話し言葉を使うと軽薄・稚拙な感じとなる.「だ・である体」(常体)と「です・ます体」(敬体)を混用しない.常体で書くのが原則.
カタカナの使い方:横文字の表記に充てるのが原則だが,擬声語や擬態語にも使われる.通常は漢字で書く言葉をカタカナにすると,特別なニュアンスを込めることができる.

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