母とは二度会うが父とは一度も会わないのは何故?などというなぞなぞがある.しかし,日本語の音韻の変化を奈良時代までさかのぼって追うと事情が違ってきたりする.そんな日本語の発音の変遷を体系的に解説している一冊である.
本によれば,「日本」はヤマトの枕詞だったという説があるらしい.「飛ぶ鳥の明日香」という明日香の枕詞である飛鳥と書いて「あすか」と読むようになったように,「日本(ひのもと)のヤマト」の日本が国号になったという説である.日本武尊を「やまとたけるのみこと」と読んだりする.日本の訓読みは「ひのもと」だが,音読み(呉音)すると「ニチホン」であり,「ハヒフヘホ」の奈良時代の発音は「パピプペポ」なので,また「ニチ」が促音便になって,古くは「ニッポン」と発音したことになる.時代が下がって「ファフィフフェフォ」から「ハヒフヘホ」へ発音が変り,「ニホン」となる.だけど何故か「ニッポン」と「ニホン」の2通りの読みは混在し続けており,今更どちらかに統一する訳にもいかないのが実情のようだ.用例を調べると「ニホン」が優勢だが,年齢層でいうと,特に若年層は「ニホン」派が多いらしい.大日本帝国は「ニッポン」で日本国は「ニホン」がしっくりくる気がする.日本銀行は正式には「ニッポン」銀行だが,「ニホン」銀行と呼ぶ人の方が多いという.2つの読み方はモーラ(拍)が異なるので,言葉の流れからハマるモーラ数があるのかもしれない.日本橋は早口の江戸っ子の街東京では「ニホン」バシ,古代を引きずる大阪では「ニッポン」バシである.
ところで,音読みの呉音は「ニチホン」だが,少し時代が下がった中国の漢音では「ジツホン」になる.マルコポーロが中国を訪れた元朝の頃は日本国と書いて「ジッパン」と発音していたそうだ.「ン」は「ng」のことであり,「ジッパング」と書く方が良いのかもしれない.一方で,16世紀頃に東南アジア交易をしていた中国人の出身地である福建省の方言では「ジップン」と発音しており,それが訛って「ジャパン」になったという説もあるようだ.ルイスフロイスの日本史ではJapam(ジャパゥン)と表記しているという.
ともかく,日本の国号に様々な発音が混在している背景は,漢字が表意文字であるという要因が大きいと思われる.

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