通勤電車の中で読む文庫本だが,先週から久々に面白いと思って読み始める.後半になって徐々について行けなくなりつつも最後まで読み終える.人の意識を機械に移し替えられる日はそう遠くないと信じる脳科学者の著書である.
脳=中枢神経系の情報処理のしくみは,電気信号を発するニューロン細胞の多層的な繋がりである.同じようなしくみを計算機で模擬することはできるが,それだけで機械が意識を持つかと言えばそうはいかない.意識は脳内の活動の何処にあるのか?それを探求する研究の進捗状況が書かれている.この分野はここ20年ほどの間に随分進んだようだ.20年ほど前に,東北大の研究者が子ひばりの脳波を観測し,睡眠中に何度も鳴き方の復習をして,親鳥が鳴くときの脳波に近づいていく様子を見せて貰ったことがある.睡眠は脳に情報整理の時間を与えるために必要なのだと知って感嘆した.今どきはf-MRIを使って人間の脳活動を観測する手法が行き渡っているようだ.読み進むうちに,高次レベルのニューロンの繋がりは,生後の経験を反映したものになっている気がした.高次とは,外界の映像を効率的に認識したり記憶したりする,いわば信号圧縮以降の情報処理である.自立できない赤ん坊のまま生まれる訳も腹落ちするし,幼少期でないと会得できない能力があることにも納得できる.そういう高次レベルのニューロンの繋がり具合には個性を生む余地もあるだろう.今のところ,見通しがついたわけではないものの,種々の事例と検証の結果によれば,高次レベルの情報処理アルゴリズムに意識がありそうだとの著者の見立てである.いずれにせよ,中枢神経活動の解明が進むと,享受できる利点がありそうだ.
仮に意識の移植が出来るようになったとすれば...肉体の死後も何らかの情報処理機械に意識を移して意識の生を続けたいと思うか否か?或いは精巧なアンドロイドに乗り移れるなら良しとするのか?そんな時代になったら生身の人間や生命は要らなくなってしまうのか?いや,きっと健康な肉体を奪う奴が出て来るんだろうな?などと,勝手な妄想に夢物語の麓に遭遇した一冊である.

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