関東大手私鉄のビジネスモデル比較だが,いずれにせよ,沿線経営という発想の大元は阪急創業者の小林一三である.関東では東急の五島慶太が同様のモデルを展開したのは昔から承知している.しかし,宅地開発ビジネスのために渋沢栄一が設立した田園都市(株)の子会社として設立した鉄道会社が東急に発展したという経緯は知らなかった.そして,その経営陣に五島を推薦したのが小林だったと知って成行きを理解した.一方で,阪急が宝塚歌劇というエンタメ創出に注力したのに対して,東急はエンタメの影が薄いようだ.この点,東武(日光),京成(成田山),京急(川崎大師),小田急(箱根)など観光地路線として開業した私鉄とは対照的である.沿線ではないが,京成は現在最強のエンタメに成長したオリエンタルランドの開園以来の大株主である.
ともかく,著者の意図はタイトルにある「格差」にある.結論をいうと,東急をはじめ,戦中に大東急に合併していた京王と小田急を含む東京西郊の各社沿線住民は高学歴高収入のホワイトカラーが多いことが種々のデータを示して論じられている.もっとも,首都圏では東急沿線を起点にして時計回りに低階層になるとはよく聞く話だが,実際にデータで確認したのは初めてである.平均収入はもとより,家賃の相場も違うようだ.また,教育熱心で私立中学の受験が盛んだという.優良ブランド塾のSAPIXの分布も,同様の傾向があるらしい.統計検定をしている訳でもないので有意性は不明だが,そういう傾向は確かにあるようだ.そんな階層のいちばん下が京成,そして東武と西武が中間にある.京急沿線はブルーカラー地帯なので,意外と京成に近い.相鉄は横浜起点で比較がしづらいが,類型としては東急に近いようだ.東急線への乗入れで更に近づくかもしれない.
話を戻すと,驚いたのは沿線ごとに購読新聞が違うということだ.高学歴高収入地域の東京西郊では左派の朝日の購読が多いのに対して,東武や京成沿線では読売や産経の購読が多いそうだ.更には,選挙の当選党派も違うという.日本に限らず,インテリ=左派の傾向はよく言われるところだが,収入との関係で論じるのは珍しいように思う.ここは統計的に追ってみて貰いたいところである.
総じて,東急沿線に代表される東京西郊の住民は都心の優良企業や官公庁に勤める高学歴高収入層で,子女は塾に通って受験で難関校を目指す.そして高学歴高収入な住民が再生産されていく.ここに,沿線として文化資本や人脈としての社会資本が蓄積され,格差が固定化するという話は学歴格差と同じである.さて,自分が暮らす京成沿線は沿線階層が全面的に低いと認識せざるを得ない.元よりそうだと思ってはいたが,救いは下町エリアの都内よりも千葉県に入ってからの方が高収入エリアに近づくという辺りだろうか?もっとも,住み慣れた地域には独特の愛着が湧く面もあり,下町には高級住宅地とは違った魅力もある.地域を比較する尺度は多次元である.私鉄各社が多様な魅力を生み出して,それぞれに個性的なまちづくりを目指してほしいと思う.

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